2024-01-01から1年間の記事一覧

松岡 健 『信州松本 赤ひげ先生心得帖』 ――志ある人生、そして志ある臨床

♦ 「世のため人のために志を持ち、祖父の意志を継いで良医になれ」 小学一年生の時に両親の離婚で辛い思いをしている自分を助けてくれた担任の教師から賜ったこの言葉こそは、「我が師の恩」である。――著者の松岡医師はそう語る。感動的な件りである。(なお…

三木清「語られざる哲学」(1919) (3) 「罪と悪、寂しみと悲しみ、それらは・・・秀れた魂が到り得る人生の本然においてでさえ見出されずにはいられないもののようである。」

♦前稿で触れたラッソの「ペトロの涙」であるが、私は特に最後の第21曲の詩に関して、イエスの怒りと悲しみは余りにも人間的であるという感想を抱いた。イエスは十字架上で次のように不平不満を吐くのである。 [最初の二行]・・・ pro te patior /・・・ p…

「悔い改められたる罪ほど世に美しきものもない」(西田幾多郎)

♦一昨日の22日、東京カテドラル聖マリア大聖堂にてラッソの「聖ペトロの涙」の熱唱を聴いた。 大聖堂の荘厳な建物の中を清麗な歌声のポリフォニーが響き渡り、聖なるものの美を浴びる幸福にあずかることができた。ご招待くださった方にお礼申し上げたい。 ♦…

三木清「語られざる哲学」(1919)  (2) 真に生きるということ

♦私は昨年の夏まで或る哲学会の委員長を務めていたのであるが、数名の運営委員(色々な大学の哲学教授)たちは皆、運営に関わる或る根本的な問題に関して議論をしようとしない(議論をさせない)という態度をずっと貫いた。具体的な話は省略するが、そのこと…

三木清「語られざる哲学」(1919)   (1) 純粋ということ

♦三木清は京都帝国大学在学中の夏休みに「語られざる哲学」(1919年)という論考をしたためた。書き出しでいきなり「懺悔」という言葉が使われるこの論考は、一高においても京大においても飛び抜けた秀才であった三木が、そうしたずば抜けた秀才としての自分自…

三木清はどうして逃亡中の共産党員を匿ったのか?

♦三木清が敗戦後も豊多摩監獄に収監され続け、そして非業の死を遂げたことについては以前の投稿(2023.3.2)で触れたが、治安維持法に違反した廉で投獄された三木の獄死は治安維持法の廃止のきっかけとなった。 『三木清 戦間期時事論集-希望と相克-』(2022)…