2021-01-01から1年間の記事一覧

人間の尊厳について (6)――権力と孤独

♦ 森友公文書の改ざんを無理やり強いられ、しかも改ざんの責任を一身に背負わされたことで自死した赤木俊夫さんの妻、雅子さんが起こした訴訟で、国は認諾というこの上なく卑劣なやり方で逃げ切りを図った。ウイグル族への中国の人権侵害を声高に非難しなが…

人間の尊厳について (5)――感情の育成

♦ イマヌエル・カントの恐らく最もよく知られている言葉を想い起こしてみよう。 - 「私の上なる星をちりばめた天空」と、「私の内なる道徳律」、 - これら二つは感嘆と畏敬の念をもって心を満たす。 - しかも、この感嘆と畏敬の念は、件の二つ(星空と道…

人間の尊厳について (4) ――真理の重み

♦ 人を差別する者が差別される者に人間としての尊厳を認めていないことは言うまでもないが、彼は同時に、真理というものにも尊厳を認めていないのではないか。例えば差別者が被差別者を蔑視する理由は彼にとって真理であるわけであるが、このような真理は彼…

人間の尊厳について (3)

♦ 少し前に出た本であるが、青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』の中で、安田氏は「中立の傍観者を決め込むメディア的感性」に関して次のような話をしている。――2016年に沖縄県高江の米軍ヘリパッド建設現場で、機動隊員が、抗議運動を…

人間の尊厳について (2)

♦ 今、報道では自民党総裁選の話題で持ちきりのようであるが、さぞかし党内ではさもしく卑小な政治家たちが、生活困窮者対策など喫緊の課題をそっちのけで見苦しい権力ゲームに没頭しているのであろう。ここで、椅子取りゲームに熱中している彼らに是非言っ…

人間の尊厳について (1)

♦ スリランカ人のウィシュマさんが施設で亡くなったことに関連する文書を名古屋入管が開示したのであるが、何と1万5千枚余りの文書のほとんどが黒塗りであったとのことである。例の赤木ファイルも最近まで国はその存否さえ明らかにしなかった。一体どこまで…

人形と気品  

♦ 日曜美術館 「ホリ・ヒロシ 人形風姿火伝」 を録画で観た。番組の紹介文にはこうある。 【人形師・ホリ・ヒロシ。等身大の人形を一から作り、その人形と一緒に舞う「人形舞」を創設。この世とあの世をつなぐかのような舞台は、伝統と前衛のはざまにあると…

終活と、生に対する傲慢

♦ 若い人にとっては例えば受験に成功するか失敗するか、就職に成功するか失敗するかは、決してどうでもよいことではない。それは多くの若者にとって切実な問題である。ところで、私は何年か前に終活という言葉をはじめて耳にしたのであるが、終活とは人生の…

意見と判断

♦ 悪事を暴かれていよいよ追いつめられた時に、このように宣った人間がいた。 「悪いことをしたと思わないが、謝れと言えば謝る」と。 この人間の気持ち悪さは決して忘れることができない。少し分析してみると―― ①「悪いことをしたと思わない」というのは第…

自由の諸相――(3) 孤立と開放性

♦ 人は誰でも自由を望む。圧制から自由になること、辛い仕事や不治の病や社会の不当な差別、等々から自由になることを望む。こうした自由=解放への欲求は非常に切実なものであり、分かり易いものである。が、こうした解放という意味での自由とは別種の自由…

自由の諸相――(2) 自由と制約 その1

♦ 国会での質疑で、答弁に立った官僚に対し総務大臣が背後から「記憶がないと言え」と指示したという報道が先日あった。無意識で口に出たそうであるが、権力が自己目的化し権力のための権力でしかなくなってしまうと、このような醜悪なことが起こるのである…

自由の諸相――(1) 自由と必然

『kyoukokukenbunshi’s diary』の「満たされないという自由」という文章を読んでその哲学的内容に刺激を受けたので、自由について少し論じてみる気になった。 ♦ まず上記の文章についてであるが、それは 「満たされない、悲しい気持ちというものは誰にでもあ…

愛と秘密

♦ 昨日の土曜日は吉祥寺のピアノスタジオNOAHでの髙橋全さん(ピアノ)と高橋美千子さん(ソプラノ)のイベントに参加した。天井の高い小さな部屋で、生まのピアノの音色、そして生まの歌声とフランス語の音を堪能する贅沢な時間を過ごしたのであるが、お二…

齋藤芳弘 著『嘘つきシンちゃんの脳みそ』――脳科学と〈こころ〉

♦ 本書は絵本風の小冊であるが、目立つのは、「かわいそうなシンちゃん」というフレーズが各左頁の一行目にルフランの如くに繰り返されていることである。底抜けの嘘つきに対して、著者は「かわいそう」という見方しかしない。ところで、最後の頁にこうある…

松岡 健 『医道百景』――医の道は人の道なり

♦ 呼吸器内科医としてコロナと戦っておられる著者の松岡医師は、その出自や経歴や実績の卓越性にも拘らず、偉ぶった雰囲気を微塵も感じさせない稀有な方である。編集部による紹介文にこうある。――先生は「たとえ病院という閉域社会の権力者の地位であっても…