2022-01-01から1年間の記事一覧

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (13) 

或る非暴力の極致が、権力の道徳的堕落を露呈させ、そのことによって一つの政権が倒れるということがかつてあった。 ❤1963年6月11日、ベトナムのサイゴンで衝撃的な事件が起こった。ゴ・ジン・ジェム政権による仏教徒に対する弾圧に抗議して、一人の老僧がガ…

優劣の呪縛からの解放――身体の論理[5]

♦ 昨日は淀橋教会にて「声楽アンサンブル・オリエンス」の第10回演奏会を楽しんだ。4つのパートが奏でる美しいハーモニーと共に、私の席のすぐ間近にいらしたソプラノの透明な歌声が、いまだに耳と心に残っている。プログラムはウィリアム・バードの曲のみで…

優劣の呪縛からの解放――身体の論理[4]

♦ 先日浦和で行なわれたマギー・マラン作『May B』の公演に関する或る投稿を大変興味深く読んだ。この『May B』は「障がいがあるだけで社会から排除されがちな者達が、笑い、悲しみ、怒り、孤独に陥る様を見せる」ものだそうで、「社会からは劣っているかの…

優劣の呪縛からの解放――身体の論理[3]

♦ 件のオーディションに集まった若いバレエダンサーたちに向かって勅使河原三郎氏は、(悲しみを表現するには)「それっぽくするのではなくて、本当にそうなるまで、動かないでやってみな。感じるまで感じて、それが外に出てくるように」と指導していたので…

優劣の呪縛からの解放――身体の論理[2]

♦ 以前NHKの報道にもあったが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に隠れた形で、ミャンマーでは内戦が泥沼化している。無抵抗の住民をも巻き込む大規模な空爆を展開した国軍と、抵抗勢力との戦闘が深刻化しているのである。内戦ということでは、例えば、古くロ…

優劣の呪縛からの解放――身体の論理[1]

♦ ダンサーで振付家の勅使川原三郎氏を特集する番組(日曜美術館)を録画で観た。この番組では様々なシーンが連関なしに羅列されていて、番組制作者が一体何を理解し何を伝えようとしているのかが観ていてよく分からなかったのであるが、それはともかくとし…

パースペクティブ

♦ 内海信彦氏のfacebookへの投稿(9月26日)にこうある。―― 「(・・・)自分の考えを入れない、主体的に思考しない若者が、高校教師や、予備校講師になり、大学の講師や、教授にもなれる日本とは、全体主義の既成事実化を教育の場で達成した、世界的にも類…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (12)  ――孤独と連帯、ニヒリズムと創造――

♦ 作家で精神科医の加賀乙彦氏(1929-)は、かつて親しく交わった高橋和巳(1931-71)について、4年前の或る会見(この会見の模様はyoutube動画で観ることができる)の席で懐かしい思い出を語っておられたが、ここでは今から半世紀前、高橋が亡くなって間もなく…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (11) 

♦ 鈴木耕氏は大学生の時に当時出た『邪宗門』を読んで一気に高橋和巳の大ファンになったそうなのであるが、その鈴木氏は(森友文書改竄に関わった)佐川宣寿前国税庁長官(当時)が国会での証人喚問において証言拒否を繰り返したことに触れつつ、佐川氏の学…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (10) 

♦ 「人間にとってもっとも汲み尽くしがたいものは人間であり、人間の精神である。」――長文のエッセイ「暗殺の哲学」はこの言葉をもってはじまる。 高橋は司馬遷の『史記』の刺客列伝(ここには五人の人物が登場する)を読み返すことから、テロリズムについての…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (9) 

♦ 安倍元首相銃撃事件は政治的事件である。野党議員やジャーナリストの方々には政治の圧力に屈することなく、この事件が炙り出した統一教会と安倍氏との浅からぬ関係、カルト宗教と政治家との癒着をとことん究明していただきたい。ただ、心配なのは、病的と…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (8) 

♦ 今現に起こっている戦争を直ちに停止させること、あるいは今後戦争が起きないようにすることは、政治の役目である。それができるのは政治だけである。ただ、戦争という、しばしば発症する人類が罹患している不治の病い、人類にとって最も深刻な宿痾を“根治…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (7) 

♦ はじめに、フェイスブックの友達からいただいた、政治家に関する貴重な言葉を引いてみたい。 「政治の世界というものは希望がないように見えますが、個人の良心が政治に抗うという事が奇跡的に起きると、本当に多くの人が救われるように思います。」 「政…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (6)  

♦ 数日前のことであるが、安倍元首相が山口市内での講演で、敵基地攻撃能力について「基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」という見解を示したそうである。本当に呆れ果てる。 武器によって戦争を抑止することはできないとい…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (5)

♦ 昨年末より、自民党内において憲法改正の動きが活発化しているようであるが、国の権力者には憲法を改める前に、まずは己れ自身を改めてもらいたい。公の場で躊躇なく嘘をつき、平気で人を見下し、公文書を隠蔽・改竄し、やたらに好戦的であり、にも拘らず…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (4)

♦ 目下の戦争をめぐって様々な情勢論が日々飛び交っているが、情勢論というのは如何にまことしやかなものに見えても、実はどれもこれも疑おうと思えば疑い得るものである。例外は原理的にあり得ない。このことは是非心得ておかなければならない。 ♦ 一方、20…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (3)

♦ 先日、日本維新の会が共産党の或る議員の懲罰動議を衆院に提出したというニュースを耳にした。何かと因縁をつけて人を威圧し攻撃する人間はどこにでもいるが、権力欲や支配欲によって己れの自我を幻想的に巨大化させた者が他人を踏み潰す、そうした行為が…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (2)

♦ 1963年は、「核兵器不拡散条約」(NPT)が国際連合で採択された年であるが(発効したのは1970年)、その年に発表した件の論考の中で高橋は、原爆はアメリカが保有する量だけで地球上の文明を十数回破滅させることができ、いずれ完成されるソビエト側におけ…

高橋和巳「孤立無援の思想」(1963)を読む (1)

♦ アメリカが北ベトナムへの爆撃を本格化させたのは1965年であるが、それより少し前の1963年に発表した論考の最後のところで、高橋和巳は次のように書いている。 「・・・現在ベトナムで戦われている戦闘についても、アメリカ側の北爆がいつ停止されいつ再開…

<平和への志> と <戦争への欲望>

♦ 思想と志について、高橋和巳は次のように書いている。 「どんな思想も最初は教えられるかたちで心の中へはいってくる。どんな観念もはじめはちょっとした思いつきにすぎない。そして、それが衒学的な知識や思いつきに終るか、一つの〈志〉となるかは、一に…