歌うことは生きることそのもの 

9日に横浜エアジンで行われたPastime with Good Company たまひび古楽ライブ』をオンラインで視聴した。高橋美千子さん(ソプラノ)と佐藤亜紀子さん(リュート)のデュオ。――以前コンサートでお二人の演奏を聴いた時より以上にアット・ホームな雰囲気だったのが良かった。途中、現在のコロナ禍との関連で、戦時下で人々が受けた規制や強制のこと、また(8月9日ということで)長崎への旅行の思い出を高橋さんが語っていたが、4月以降コンサートがすべてキャンセルされ活動がひどく制約されている昨今の辛い状況から戦争のことを連想してしまうのは、演奏家にとっては恐らく自然なことなのであろう。しかしそれでも災厄に屈することなくみずからの道を突き進もうという強い意志をお二人に感じた。

♦ ところで、先日の報道特集でキャスターの金平茂紀氏が、「芸術は不要不急のものとされているが、芸術というのは生きることそのものなのである」と言っていた(私の記憶は正確ではないかもしれないが)。確かに芸術は不要不急のものと看做されても仕方のないものなのかもしれない。しかし芸術は生きるために必要不可欠なものではないとしても、まさに肝心かなめを成すもの、つまり〈生きることそのもの〉なのである。というわけで、芸術を趣味とか教養という観点で見ることに私は激しい違和感を覚える。

♦ 人はお金とか社会的地位といった、生きるために必要なものに大いなる関心を寄せる。しかしこの関心は度が過ぎると、却って人をして生きること自体に対して無関心にさせてしまうのではないか。あるいは、生を豊かなものにするどころか、むしろ貧しく邪なものにしてしまうのではないか。それに対して、芸術はそれが純粋なものである限り、〈生きることそのもの〉として、他人に対する不当な支配や優越への貪欲(またその裏返しとしての奴隷根性)から人を解放し、人と人とが互いに求め合う対等な関係を作るはずである。